SCENE:21  ジャック・ザ・リッパー

 

―――[2139年12月23日]

 

『連続殺人犯、通称ジャック・ザ・リッパーによる被害者がまた一人増えました!今度の被害者は東京コロニー在住の20代のアメリカ系女性です!被害者は首を斬られ殺された後、犯人により死姦されており、一連の連続殺人犯ジャック・ザ・リッパーによる犯行の可能性が高いと警察の鑑識で明らかになりました!ついに東京コロニーでもジャック・ザ・リッパーによる殺人が起きてしまいました!これで今までの被害者は発見されただけでも16人に上っています!』

 

ここの所テレビは毎日のように連続殺人犯ジャック・ザ・リッパーの報道や特集で溢れかえっていた

白を基調とした壁に囲まれた寮の部屋で、ヤマト、リー、イアン、ダンボの4人は固唾を飲んでニュースの女性リポーターの言葉を聞いていた

それぞれの沈黙の持つ意味は違ったが、いつも先生に怒られるまで騒がしいこの部屋がこの瞬間だけはTVのアナウンサーのせわしない早口以外の一切の音を持っていなかった

「え……このコロニーで起きたってこと?」

イアンが震えた声で呟いた

「いつか来るとは思ってたけど、まさか本当に来るなんて…やべーやべーよヤマト!ジャック・ザ・リッパーに会えるかもだぜ!!」

リーが小さな薄型テレビの周りをぐるぐると小躍りで回る

それを見たイアンが慌てたように小踊りするリーの腕を掴む

「や、やめなよそんなこと!!こ…殺されちゃうかもしれない…よ……?」

「でもジャック・ザ・リッパーって大人の女の人しか狙わないらしいから〜、僕たちはだいじょぶだよ〜」

ダンボが、ベッドの下から取り出した『うもい棒』を頬張りながらいつもの調子で話した

そんな中、ヤマトはテレビのコメンテーターが繰り返し使うある言葉が気になっていた

 

「……なぁ…『シカン』ってなんだ?」

 

寸劇をしている3人を遮るように割って入ったヤマトの言葉に、3人は固まった

「……シカ…ン?」

「……言われてみれば、意味が全く分からないね…」

「うまいの…かなぁ……」

この時4人の中には、『なぜだか大人には聞いてはいけない気がする言葉』という共通の認識があった

小学校高学年くらいから、そういう言葉に対する野生の感なるものが異常に研ぎ澄まされる

見てはいけないもの、言ってはいけない言葉

そういうものに対する感覚がするどくなるのと同時に、それらに対する欲求が尋常じゃないほど高まる時期であった

しばらく無言であった4人は、誰に聞くこともなく、そっとその疑問を心の奥に閉まい、2度と口には出さなかった―――

 

――この後政府がテレビで緊急対策措置を行うと発表。コロニー中にジャック・ザ・リッパーの似顔絵が張り出されるのと同時に東京は出入国,外出禁止令が出され、セル一つ一つに警察が立ち入り検査することになった

このせいでその年の学校のクリスマス会は中止になり、さらにヤマトたち4人は寮の部屋に缶詰め状態で年明けを迎えるはめになった

 

ジャック・ザ・リッパー

2137年8月15日、ロンドンコロニービッグベンストリートで一人の女性が殺害された

死姦された被害者、死体が血で書かれた謎の魔法陣で囲われていた等、宗教的な殺人であることもメディアを騒がせる一端となっていたが、この殺人を世界的に有名にした一番の要因は『殺害方法』であった

直接の死因は首を鋭利な刃物で切断されたことによる失血死

切り口からするに、刃渡り30cm以上、さらに個人が製造出来得るレベルではない切れ味をもつ刃物であることが分かった

6億の人類が地下に移住してから17年、絶対平和の法典とその尊守に全力を掲げてきた政府と警察の甲斐もあり、銃器や刃物での殺人は一度も起きていなかった

そのせいもあり、各コロニーのマスメディアはこぞってこの怪奇殺人を取り上げた

その後3ヶ月の間に、立て続けに同様の殺人が3件起きた

そしていつの間にか、どこの誰から出たのかは定かではないが、『ジャック・ザ・リッパー』という通り名がこの連続殺人鬼につけられた

その後2138年11月までに計7件の殺人が起きる

前代未聞の連続猟奇殺人、特徴的な殺人方法にも関わらず、3ヶ月経っても警察は依然ジャック・ザ・リッパーの足取りを掴めずにいた

そんな中、あれだけ世界中を恐怖の渦に巻き込んでいたジャック・ザ・リッパーは、2138年11月26日の事件をきっかけに、パタリと息を潜めた

マスコミはジャック・ザ・リッパーは捕まり処刑された、自殺したという報道を流していたが、それが逆効果であった

捕まった写真も映像もない状態でこれでもかというくらいに事件の幕を引きたがっているマスコミに対し、ネットは専ら「ジャックは生きている」「死体を食べて証拠を消すようになった」などといった憶測で溢れかえり、「昨日○○でジャック・ザ・リッパーを見た」などの情報が飛び交い、一時社会現象にまで発展した

しかし人間の興味の移り変わりは早いもので、その過熱ぶりも1年経つと徐々に沈静化しつつあった――

 

――2139年12月6日、再びジャック・ザ・リッパーによる殺人が起きるまでは

 

復活を遂げた殺人鬼はその異常さを増していた

3週間の間に9人もの人間の命を奪い、ロンドンコロニーだけではなく世界中で殺人を犯すようになった

いよいよ世界規模で政府が緊急対策措置対策を取ろうとした矢先、1本の映像データが世界政府宛てに送られてきたという報道がマスコミから発信されると共にその映像が公開された

中身は、ジャック・ザ・リッパーと思われる人物による最後の公開殺人と、自身の自殺を収めたものであった

こうして世界を慄然とさせたジャック・ザ・リッパー事件は、真相を闇に残したまま終止符を迎えた

ヤマトたちの記憶の片隅にあるこの事件は、10年後に思いもよらない形で蘇ってきた―――

 

 

ジャック・ザ・リッパー

謎の刃物

空白の1年間

突然の公開自殺

 

――彼は、本当に死んだのだろうか?

 

 

ヤマトはそれを口にしかけたが、意味の無いことだと言うのをやめた

 

SCENE:20< >SCENE:22

TOPへ 感想コメント送信

久々過ぎて話忘れた\(^0^)/作者シネ

inserted by FC2 system