SCENE:18 マッドサイエンティスト |
―――[世界政府 プライムルーム] 「大統領!!ブエノスアイレス〜NY間のリニアにおいて何者かによる襲撃事件があった模様です!!」 机上に山ほど積み上げられた書類を全く気にもせず、第二秘書官は倒れこむように部屋に入ってくると、大統領に息を切らしながら報告書を読み上げた 「例の……勢力か…」 書類の山に遮られ大統領の表情は伺えないが、とてもゴードンの紳士的ないつもの声ではなかった 肩で息をしていた第二秘書官は一つ唾を飲むと、片手で胸を押さえながらしっかりと言葉を続けた 「おそらく……しかし、ヤマトタケルという青年がそれを退治したという噂が…」 慌ただしく右から左へ書類を追っていたゴードンの目線が止まる
「ヤマト……タケル…?」
「えぇ…年齢・国籍的におそらくDr.ヤマト夫妻の息子かと……」 ゴードンの口角がゆっくりと上がる ゴードンは持っていた書類を机にほおると、大きな息を吐きながら長い背もたれに寄りかかった 「はっはっは……そうか…生きていたのか……サバテも然り…これは面白くなりそうだ…」 ゴードンの笑みには、まるでこの事態になることを予め予測していたような不気味さが漂っていた
「そう言えば……イトウはどうした…?」 「イトウ第一秘書官は、現在ヘラクレスのトレーニング合宿に同行しています」 「……?ヘラクレスはもう帰ってきたじゃないか」 「『半年前のブエノスアイレスの事件について調べてから帰るので遅れる』と言っていました。あ、そう言えばそのリニアにMr.イトウも乗っていたそうです」
刹那、ゴードンの表情が曇る
「……おい、イトウの周辺を調べろ。SS砲とMODを盗んだのはやつかもしれん……」 「…え?Mr.イトウがまさかそんな…」 「……あぁ…私も信じたくはないがな…万一…」 ゴードンの表情は何か哀しげな憂いを含んでいたようにも見えた――
――
――――……?
ここは……?
あの…部屋?
シルクの布団と柔らかな布に包まれ、ベッドに座る自分 辺りを見渡すに、タンスの上にはテディベアや人形、その反対側に位置する木目調のラックの中にはたくさんの写真立て そこに写るは4人の笑顔 白衣に身を包み、白髪交じりの髪に優しげな表情を浮かべる30代の男と、同じ白衣に長い黒髪が太陽光に映える、しゅっとした女性 その間で手を繋がれ楽しそうに笑うそっくりな二人の男の子―――
この部屋は以前夢で見た部屋そのものだった
「……」
また、同じようにドアの方へと歩き出す 不思議と、恐怖はなかった ドアの先にこの前のような怪物は、もういない気がした
ギィィィ
ドアの隙間から先を覗きこむ 『ダメよ!!自分の息子を実験台にするなんて何考えてるの!!』 『この抗ウィルス剤は顔面変形や身体異常発達、神経系などへの副作用がない。これの効果さえ実証出来れば俺たちは英雄だ!!』 『動物実験からきちんと手順を踏めばいいじゃない!!』 『そんなことをしていたら何十年かかると思ってるんだ!!これは革命だ……革命なんだ…分かってくれ…』 『……狂ってる……狂ってるわ――!!』
――単調な電子音が一定のリズムを刻む部屋 ぼやけていた視界が段々とはっきりとしてくると同時に、白い天井の模様が浮かび上がってくる
「…マト!ヤマト!!」 よく通るデカい声、自分を覗き込む金髪白人の女。あー、見覚えがある、見たことあるぞこの顔。と彼の頭は思ったより冷静に働いていた
「ア…アニー…?」 はっきりとしてきたヤマトの視界の先には、その大きな瞳に涙を一杯溜めて唇を噛み締めるアニーがいた 「良かった…良かったよーひっ、えっぐ、うぅぅ…うえぇぇん」 アニーはヤマトと目が合った途端、嗚咽をもらし布団に顔をうずめ泣き出した
アニーを見て安心したのか、生きていたことへの安堵か 久々に、ヤマトは笑った
「……鼻水…布団につけんなよ…」 そう言うと、ヤマトはアニーの頭にそっと右手を乗せた。さらさらの柔らかな髪の感触が指先に伝わる
俺は生きている。そう、確信した瞬間だった
窓の外に見える緑生い茂るイチョウの木には、二羽のウグイスが寄り添いその歌声を響かせていた
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リーたちどこ行った?