SCENE:15 衝撃 |
「――ヤ、ヤマト!!ま、待て!!」 「逃げろヤマト!!」 相対する二人の兵、今にも消え入りそうに点滅する電灯に、二人の間で火花を散らし暴れる導線 激しく火花が爆ぜる音と、大きく開いた壁面から吹き込む強風の音で揺れ動く空間に人間が四人、そして…… 「先ずは…貴様からか……」 はっきりとは聞き取れない枯れ声でそういうと、『それ』はゆっくりと両手を大きく上に構えた それに合わせ、ヤマトもゆっくりと息を細く吐きながら両拳を『それ』へと向けた――
―――[この時より15分前 ブエノスアイレス〜NY間大陸間移動リニア車内]
「……おい…まじかよ…」
イアンの口から次々と出てくる言葉は真実味を帯びていながらも、とても信じがたいものであり、三人に十分すぎる衝撃を与えた 「アジトに帰ってから話すこともたくさんあるが、とにかく、今僕が話したことは全て本当だ」 「え……でもなんでイアンが…」 「僕しかいない。世界を変えられるのは」 静かに話すイアンの目には、確固たる決意が見えていた その雰囲気に三人とも固唾を飲む さらにイアンが言葉を重ねる 「単刀直入に言う。三人に僕らの仲間になって欲しい」
「…え?」
イアンの一言に瞠目する三人 「今アジトメンバーは僕を含め二人だ。出来ればもう少し増やしたいが、そうすぐに信頼出来るやつが出来るわけじゃない。ここで出会えたのも何かの縁だ、昔から親友だった三人にメンバーになってほしい」 「え……でも…世界政府を相手に闘うなんて…」 「イアンの言うことが本当なら、確かに政府のしている事は正気の沙汰じゃない…がしかし……」 リーとダンボは明言を避けるかのように言葉を濁らせる。二人ともイアンの言うことを信じていないわけじゃない。しかしいざ自分が…という含みを持っているようにも感じられた ヤマトにもそういう気持ちは少しあった。が、もっと気にかかることがあった
「その後……その後はどーすんだよ?」 「…」 イアンは表情そのままに目線をこちらに移す。イアンは初めからこの質問を予期していたのかもしれない、彼は一切の表情を崩さなかった 「世界政府の陰謀暴いて世界救って……その後みんなはどーなっちまうんだよ?俺らが世界治めるってか?」 「……地上へ帰る…全員……」 「ち…地上……?」
――その時
ドゴォォォン!!!
突如耳を劈く轟音と共に、直下型の地震にも似た激しい揺れが車内を襲う 視界がぶれるほどの強震に思わず四人が振り返るとそこには、先の轟音で開いたであろう側壁の大穴から激しい強風が吹き込んでいた
その横に佇む異形
一瞬の静寂を置いて堰を切ったように混沌へと陥る車内。混乱から生まれる人の金切り声。「それ」から逃げるように隣の車両へと逃げ惑う様は異様そのものであり、大人は我先にと小さな子供ですら押しのけた。十人前後しかいないはずのその車両にも関わらず、母親の伸ばす手は逃げまどう肉塊に呑まれ我が子に触れることすら許さない 激動の車内 その衝撃からか、車両のヒューズが切れ電灯はチカチカと点滅している その点滅の中に不気味に浮かび上がる巨大な異形 「て…てめぇ……!!」 その中にその異形の顔を視認したヤマトは激昂する 首から上は「あの」狐目の男そのものであった。がしかし、首から下は土色の肌に隆起した筋肉が不気味に光り、体全体には薄い体毛のようなものが生えていて、どこからどうみても「人間の体」ではなかった その狐目の怪物が人の頭ほどある右拳を振り上げ天井を激しく叩くと、天井にはヒビが走り、割れた電灯は激しく辺りに火花を散らせた 「カワ…ノ…」 そう呟くと狐目の怪物は踵を返し、車両の端で怯えている日系人の男に向かってゆっくりと歩きだした 「おい!待て!!」 ヤマトの怒号に怪物はぴくりともせず、その歩を進める 「…なんなんだよどいつもこいつも……」 ヤマトの怒りは頂点に達していた。それは彼らに対する嫌忌の感情ではなく、どうすることもできない自分の不甲斐なさに対してであった 怪物と男の間がもうあと一歩というところまできた時、ヤマトは咄嗟に足元にあったガラスの破片を怪物の右足首に向かって投げつけた その破片は風を切り裂き怪物の右アキレスに深く突き刺ささった。思わぬ攻撃によろめいた怪物はその場に岩のような膝をついた ゆっくり振り返った怪物と目が合った時、ヤマトの後ろからイアンが叫んだ
「それは政府の殺人サイボーグだ!!闘っちゃダメだ!!ヤマト!!」
ヤマトの中で、何かが切れた音がした――
|
最近の若者はキレやすいらしいです。