SCENE:14  始動

 

―――[2120]

 

「……俺達は地下へは行けない……」

 

荒れ果てた荒野に、何とかその形状を保っている錆びれたフェンスと枯れた草木が砂混じりの空風に寂しげに揺れる

その広大な荒野に長い長い列を作る小奇麗な服を着た人間の群れ

それを遠巻きに眺めるボロ布を羽織った人々

ボロ布を羽織った人々の前には、厳つい制服に身を包み小銃を胸に構えている軍人たちが列をなして彼らを牽制している

 

「――ねぇ、とーちゃん。なんであの人たちは並んでるの?」

空風から身を隠すように頭を汚れた布で覆った少女が、隣でその列を虚ろな瞳で眺める父に問いかける

「俺達はな…感染したことにされたんだ……」

「…?私元気だよ?とーちゃんも、セシルも、カイエンもみーんな元気だよ?」

「あぁ、元気だ……ここにいるみんな全員……助かるはずなんだ……みんな」

「…じゃあ…なんで?」

「……国が…決めたんだ……」

 

巨大な建物に入っていく人間と、軍人と対峙し生気の無い目でそれを見つめる人間の間には

群集の足音と、吹き抜ける風の音だけが虚しく通り抜けていた―――

 

 

 

 

―――[2150年 ブエノスアイレス サーキット近くのカフェ]

 

「――俺ら4人が集合するなんて何年振りだ?なあダンボ?」

「んー俺がパリに養子に引き取られたのが小学校卒業の時だから……8年くらいか?」

「それにしてもダンボもリーも変わってないな〜。あ、ダンボはちょっと痩せた?」

 

偶然の旧友との再会ほど嬉しいものはない。リーやダンボ、イアンはみんな昔に戻ったかのように子供のような笑顔を見せていた

その中、ヤマトだけがあまりいい気分ではなかった

しばらく三人の会話を余所に窓から外を眺めていたが、我慢の限界に達しようとしていた

 

「――なあイアン、なんでヘラクレスと一緒なんだよ」

「え?」

イアンが目を丸くしてヤマトを見る。無理もない、この場でヤマトが不機嫌である理由がない。無論ヤマトもこのイライラは自分の情けなさに対するものであると自覚していた

「お前がな、今世界政府で大統領秘書とかなんとかをしてるっつーことは分かった。でもそれがヘラクレスとどー関係があるんだよ?」 

テーブルを囲むダンボとリーの目線がイアンに移る

数秒の沈黙――

 

その後イアンはゆっくりとメガネを上げなおすと、テーブルに肘をつき、声を低く落とした

「……それも含め、みんなに話したいことがあるんだ。ここじゃあれだ、場所を移そう」

笑顔の消えたイアンの顔には、何か思いつめたものが見えた気がした。その雰囲気の変わりように、三人は固唾を飲んだ

「移すってどこへ…?」

リーが腰を引きながら、イアンに問う

イアンは脇目でリーを一瞥すると、三人を見据えて言った 

 

「……アメリカだ――」

 

 

 

―――[同時刻 世界の何処か]

 

「――おい、310番のリストはどうした?」

「310番は、フジライ・オリゲルを始末した際に何者かから脳幹にダメージを受け、処刑続行不可能となりました」

天井の白熱灯だけが不気味に光る薄暗い部屋

その僅かな光に照らされた鉄製の部屋は決して綺麗なものではなく、所々剥き出しの配管に錆びが目立つ壁面は、部屋の冷徹な雰囲気を醸しだしていた

中央に座り報告を受けている男の鉄製の机には様々な書類が積まれていた

その机を挟み、椅子に座る男に報告を続ける狐目の男

顔こそはヤマトたちと対峙した男に似ていたが、体つきは二周りから三周り小さく、黒縁のメガネのようなものをかけていた

一方受け取った書類に目を通す男の顔は一見して普通の20代青年男性の顔立ちで、彼ら特有の特徴はどこにもなかった

「残りの310番の担当は誰だ?」

「残りは…1人です。カワノコウジという男で、調査によるとドラッグレースを見にブエノスアイレスにいるとのことです」

「チッ…すぐ上のレベルの代わりを送れ。期限は迫ってるぞ」

「は、ただちに」 

焦りを隠せないといった様子の男の言葉に、メガネの男はすぐに振り返ると重々しい鉄の扉を開け足早に出て行った

ギィィという耳障りな音と共にドアがぎこちなく閉まる

 

「あと少しだ……あと少しで、完結する…」

 

机に座る男はそう呟くと、神妙な面持ちで机の片隅で立っている写真立てをゆっくりと手に取った

そこには、にっこりと微笑む若い夫婦と、それと手を繋ぎ笑う二人の男の子が、煌びやかに写っていた

 

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