SCENE:04  アトムエネルギー

 

「ヒャッホーー!!」

「いやーひっさびさだなぁー!」

 

ヤマトたちは、誰もいないただ地平線へまっすぐと伸びる寂れた道路を、エンジンを唸らせながら風を切って走っていた

このコロニーの大多数の人間が住む中央区(東京コロニーの中心部)を北東に抜けた先、約100kmほどの所に不気味に佇む通称5号廃墟

昔、とは言ってもたかだか25年くらい前の話であるが、ここは都市部に電力を送る巨大な「発電所」であったらしい

当時の面影を残すように、目の前には廃墟となった巨大な発電所、その周りには発電所を囲むようにたくさんのセル(居住用建物)が建っていた
 

 
「しっかし…こんなデカい建物立ててなんで使わないんだろうな」

ヤマトたちは、発電所の入り口付近にバイクを止めてその巨大な建築物を見上げていた。そびえ立つような大きな壁が左右1km以上に渡って伸びており、両端が霞がかって見えない。そのためいつもここに立つと、この向こうは新世界が広がっているんじゃないかと錯覚を受ける

ヤマトの呟きに、リーも同じように壁を見上げながら応えた

「今はさ、『アトムエネルギー』があるだろ?だからこの発電所はもういらないんだよ。なんか人間が地上にいた頃はこーゆーデカい発電所がたくさんあって、『原子力』っていうエネルギーを使ってたらしいぜ」

「……ふーん…俺機械のことはよくわかんねーや」
 

リーが得意げにいつもの雑学知識をひけらかしている間、ヤマトはさっきまで走ってきた長い無人道路の先をぼんやり眺めていた

ここは科学の粋の限りを尽くした中央区のそれとは違い、地べたを這う所々ひび割れた道路に、それに沿うように建つあまり高くないセル群は若干傾きかけていて、さらには剥き出した地面から巻き上がる砂埃が視界を不明瞭にし、それらが中央に構える巨大発電所の不気味さをよりいっそう演出していた

 

ここはまず人が来ないし、道路の幅自体も狭くない

だからヤマトたちは暇な時にエアバイクでここに来ては走り倒し、発電所の屋上駐車場で一服するのが彼らの日常だった―――

 

 


「―――あ、そーいやヤマト、今日のサッカーの試合見に行くか?」

「ん?なんで?」

5号廃墟の周りを砂煙をあげながら人気のない道路を一通り走り尽くした後、二人は発電所の屋上から人工太陽が地平線に沈みゆく様をぼんやりと眺めていた

あの太陽も、この空の茜も、コロニーの天井に写し出された虚構の映像である。本物を見たことはないが、この夕焼けはとても美しく、優しい光であるとヤマトは思った

ここでこの柔らかな光に包まれる度、「いつか本物も見てみたい」、そんな絵空事を本気で思い描いていた時期があったなと思い出すのだった

「今日クラブリーグ最終戦じゃないか。しかも今日ペイトリオッツが勝てば逆転優勝なんだぜ!!」

「うおマジか!!昨日まで全くニュースもテレビも見てなかったから知らなかった!でも…もうチケット手に入らないだろ」

「ふっふっふ…」

リーは、何か企んだ時にだけ見せる決して爽やかとは言いがたい笑顔を見せると、作業着の胸元から2枚の長方形の紙切れを取り出した

「うお!!それは!?」

驚き反射的にチケットに飛びつくヤマトに、リーはまるで猫じゃらしを操るようにチケットをひらめかせ、ヤマトの伸ばす手をひらりとかわした

「この日のためにチケット2枚取っといてやったんだからな!ほれほれ敬え敬え」

くたびれたコンクリートで造られた屋上に、長い長い2つの影を作りながら、二人の少年は茜色の空に笑い声を響かせていた―――

 

 

 

 

―――[NY第1コロニー 世界政府本部 第2会議室]

「――北京の謎の病原菌の正体が分かりました」

薄暗い会議室に浮かぶ8つの影が円形のテーブルを囲うように座り、各人が重々しい空気を漂わせていた

8人はプロジェクターに映し出された映像を各々の姿勢で見つめながら、その横で説明をする男の話に耳を傾けていた

「…で、なんだったんだね?」

「…MOD(March of Death)です」

申し訳なさそうにメガネを直す男の言葉に、8人の男たちは一斉にため息を漏らすと同時にざわめきだす

「今度は細菌兵器か…」

「ブエノスアイレスの小型シンクロトロン砲に続いてMODまで…一体誰なのよ!?」

「お、おい!!大丈夫なのか!?世界法典では『殺傷出来うる武器の開発所持は禁止』と定められてるんだぞ!?それを定めた我々世界政府理事が武器を開発しているなんて知れたら…」

7つの影がざわめく。机に頭を伏せる者、腕を組み唸る者、騒然とする会議室。この光景は半年前にもあった

が、その時もこの人物だけは冷静を崩さなかった――

 

「みなさん落ち着いてください。SS砲もMODも盗まれたのは試作機で、さらに両方ともまだ公表されてない技術です。死体を見て気付くのは我々と開発チームだけでしょう。それよりも問題なのは、何者かがこの二つを盗み出し、悪用しているという事実です」

「一体誰なの…誰がやったのよ?」

「それをこれから徹底的に調べます。本部から各支部、取締役から平まで全員。念のため、MOD培養機もSS砲の時と同じようにしばらくセキュリティールームにて保管します」

 

彼には状況を客観視できる能力があった

論点を明確にし、ギリギリの淵に立たされても冷静を崩さない。その時点で全体にとってのベストな選択をすることが出来る

そしてそれを実行に移す行動力、常に先手を取ろうとする決断の早さ

これこそが、彼を「世界大統領」に押し上げた大きな要因の一つと言える

 

全員がNY第1コロニー代表兼世界大統領であるアークラフト・ゴードンの話を、固唾を飲んで聞いていた

 

 

ただ一人を除いては―――

 

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