SCENE:03 怪物ヘラクレス |
――[第1コロニー(NY) 第一闘技場 100Fメインコロシアム]
―――[バイクファーム『アポロ』] 「んーよくわかんね。ただ…」 「?」
―――昨日の決勝は、すごく胸クソが悪い試合だった 相手が『アレ』だったからかもしれない 倒しても倒しても立ち上がる。その目には俺に対する恐怖は一向に感じらない 逆に、俺を倒そうとする気概も一切 ただ機械的に俺に向かって攻撃を仕掛けてくるだけ・・・ 結局、俺が圧倒的な判定勝ちを収めた が、最終ラウンド 相手のスピードが飛躍的に上がった 疲労が、乳酸が、溜まっているはずの相手の足腰は、今までで一番俊敏に動いていた そして一瞬の油断 俺は前の準決勝で右目眼底骨折をしていたため、右半分の視野が十分ではなかった その死角から感じた背筋を這いずり回る悪寒に、本能的に膨張した俺のふくらはぎが後方へと体を逃がす その刹那、俺の目に「それ」が当たる直前、確かに見た。見た 俺の目に向かってくる相手の左ヒジから飛び出した『鋭利に尖った何か』を 肘自体は当たらなかったが、その見たことも無い『何か』の先に上瞼が掠った しかし、俺の上瞼を掠っていった『何か』は次の瞬間には消えていた その瞬間だけ相手が見せた、格闘家の持つそれとは違う種類の殺気と、俺でなければ見えすらしなかったであろうスピード その一瞬が頭にこびりついて離れなかった 昨晩は疲れからあまり考える余裕もなかったが、一晩経って相手に対する嫌悪が段々と表に滲み出てきていた―――
「普通はなー。でもその『鋭利に尖った何か』って『刃物』じゃねえか?」 「ハモノ……?」 聞きなれない言葉に、ヤマトは眉をしかめた。それを見たリーが、手振りを交えて説明しだした 「あ、お前歴史取ってねーもんな。まあ学年で取ってたの3人しかいなかったけど。でな、『刃物』っつーのは、俺たち人類が地下に移住する前に野菜や果物、肉なんかを切るために使ってた道具なんだよ。大体こんな形の。なんか大昔は人を殺すのにも使ってたらしいぜ」 「なんだそれ?じゃあ今は家事ロボットが使ってんのか?」 「いや、今は人殺せる物作っちゃいけないから、販売の段階で切られてる。まあ業者が使用許されてる切断器具も、固定式の『ウォーターレーザー』っていう水圧で切るやつのみだけどな」 「へぇー、でも、じゃあなんでその『ハモノ』が人間の肘から出てくんだよ?」 「だーかーらー、信じらんねえって言ってんの―――」
リーは機械の他に、人類が地上にいた頃の文化に興味がある 受験に一切使わないし、覚える量も半端じゃない。教科書を出してる出版社も少ない これらの理由から、「歴史」を薦める教師はまずいないし、取ろうとする生徒もいない だがリーは、こんな何の得も無いような歴史の教科で、いつも満点を取っていた 特にリーのする「レトロ映画」の話は、本でも出せるような程詳しかった 「おいリー!お前仕事サボってんじゃないよ!全く最近の若者は…」 源ジイが金歯をむき出しにして笑うのを遮るかのように、ヤマトは源ジイに話しかけた
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