SCENE:02 IRC |
次の日、ヤマトは事務局へ賞金の受理を受けるために第一闘技場へと足を運ぶことにした 彼は昨夜の右目眼底骨折で眼帯をしていたため、車に乗り込むと自動運転に切り替え行き先を告げた 「…第一闘技場」 『了解シマシタ』 事務局へ向かう間、ヤマトは流れゆく外の景色を見ながら昨夜の闘いを思い出していた 施設規模にして世界第3位の規模を持つ新東京第3コロニー 建ち並ぶ100階超のビル群の間にまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされた空中道路。そこを行き来する車の群れを見下ろすように上空をゆっくりと往来する大型輸送機 そして第3コロニーの中心部にそびえ立つ一際巨大な塔と、そこからまっすぐ天へと伸びる3km超のエレベータ あそこは第3コロニーの核となる施設が詰まった所謂「中央省庁」みたいなものである。 そこからコロニーの天井へと伸びる気の遠くなるほど長いエレベータは、昔地上から移住する際に使われたものらしいが、今はもう立ち入り禁止になっており使われていない 『――第一闘技場、到着シマシタ』 到着を告げる機械の単調なアナウンスを聞いたヤマトは、一通りの書類が入ったバッグを抱え、巨大な筒状の建物に入っていった 高さ3mはあろうかという巨大なガラス張りの自動ドアをくぐる。外の熱気とは裏腹にクーラーの効いた心地よい風が頬を撫でる 目の前にはおおよそサッカーグラウンドくらいあるであろうロビーに、フォーマルからカジュアルまで様々な服装をした人々が忙しそうに歩いたり、ゆったりとベンチで談笑したりしていた 「――プロフェッショナルフロアの事務局は51階になります」 小綺麗な水玉のスーツの女性に案内されエレベータで51階に上がると、先ほどの受付嬢とは色違いのスーツを着た受付嬢がマニュアル通りの営業スマイルを浮かべていた ヤマトはその受付嬢に書類を手渡すと、一歩彼女から距離を置いた。彼女からほのかに香るピーチの香水は、年頃の男子とって少し刺激が強すぎた そんなことに気づくはずのない受付嬢は、書類に目を通しながら淡々とヤマトにいくつかの質問を投げかけた 「IRCの方に異常などはありましたか?」 「いや、大丈夫ですよ。眼帯は一応ですから一応、ヘヘヘ」 「では、視力の方も大丈夫ですか?」 「はい、試合後も視力はありました。若干下がってましたけどね」 「分かりました。では賞金10万ドルを入金しますのでパーソナルカードをご提示ください―――」 その後事務局の迅速な対応により10万ドルを手に入れると、ヤマトは事務局を後にした 外に出ると、疑似太陽の目を焼くような光線とムッとした暑さがヤマトを襲った。顔をしかめたヤマトは、ふと右目下に違和感を感じとった 「…もうほとんど治ってんな…傷…」 ヤマトはまっすぐ車に戻り眼帯を取ってミラーで目の下を確認すると、昨日まで深い切り傷だった所がもう跡が薄くなるほどまでに回復していた 骨折の痛みも、もう気にならなくなるくらいにまで引いていた 「やっぱ俺のIRCは優秀だなーヘッヘッヘ」 ヤマトはそう笑うと自動運転をオフにし、ハンドルを握った ―――いつからだろう、俺の体が人とは違うことに気付いたのは 初等科5年の時、サッカーをしていて友達とぶつかり右足を骨折した時 あれだけ大泣きして、先生たちに慌てて救急車を呼ばれ病院で全治1ヶ月とまで言われたのに 5日後にはその足でピョンピョン飛び回っていた 中等科2年の時、助っ人で出たアメフトの試合で得点王を取った ボールが止まって見えたし、相手の筋肉の動きが手に取るようにわかった この時人よりも運動神経、とりわけ動体視力や反射に優れているんだと実感した そして高等科初年度の身体検査で心臓近くにIRCが埋め込まれていることが分かった いつ埋め込まれたのかは今でも分からないが、医者には現行のIRCよりも少し旧型の可能性があると言われた 物心ついたときには両親はいなかったし、小中高ずっと寮制のプロテクティドスクールで育ってきた俺にとって IRCはどこぞの億万長者が夢見る不老不死のためのものではなく、単なる稼ぐための道具としか捉えていなかった――― 「目もほとんど治ったし、久々にファームでも行くか」 ヤマトはそう呟くと、アクセルを開け市街地にあるファームへと車を加速させた |
用語解説集&世界地図追加。そっちに力入れすぎた俺うんこ。