ウォーリーを探せ

 

「おい!!やつは見つかったか!?」

「くそっ…!!早く!!早く探せぇぇぇ!!」

「おい!!あっちでやつを見たやつがいるぞ!!」

 

 

ガス灯が照らす美しい赤レンガの家並みに響く怒号

普段であれば街も人も眠る時間、しかし今日は誰も眠らない

 

 
なぜか?


よくわからない


疑問を持ったことがあまりない


ずっと前から


ずっと前から『探す』ことが当たり前になっていたからだ


俺らの街は毎月1日の0時になると街の人ほぼ全員が外に出る

そして「ウォーリー」を探す

ウォーリーは1日の0時から日の出までしか姿を現さない

この約6時間の間にウォーリーを探しだして殺さないとその月街に恐ろしい災いが起きる

しかし逆に捕まえれば永遠の楽園に行けるという



そう言われてきた


昔から失踪者が多いこの街では、神などの類いへの信仰が深いのだ

都会から離れた所に立つ街で交通、通信が乏しいため、情報が入らない

だから街の人々は年配の人の知恵を信じるしかない

それが、この街の信仰の深さに拍車をかけていた


 

 

だから今さら誰も「ウォーリーは誰なのか?」「なぜ殺しても出てくるのか?」「なぜ捕まえないとダメなのか」なんて考えない

親も祖父母も今までこうして生きてきたし、俺もこうして生きてきたからだ



「おい!!スミス!!やつは見つかったか!?」

「いや…まだだ」

「あと約4時間だ!!急げ!!」



そう言うとKJは白い息を肩で切らしながら走っていった


「あっちで見たってやつがいるぞ!!」

「よし追えぇぇ!!」

「早く…早くしないとまずいぞ!!」


普段は温厚な街の人々も、この日だけは変貌する

包丁、こん棒、銃など、各々が人間を十分殺せるであろう装備をし、目の色を変えて街を走り回る


しかし、全員が全員ではなく、災いを信じず普通に家で過ごす者、「殺していたらいつか災いが来るぞ!!」とウォーリーを保護しようとする者など、所謂「街のはみ出し者」も極少数ではあるがいる


ただ確かなのは、この日の街の人々の性は人間のそれでは無くなること









しばらくして、今回もウォーリーは捕まり、処刑された



「やったぞ!!スミス!!俺ウォーリーを見つけて殺したよ!!これで国が密かに作っているっていう楽園に住めるぜ!!」



なんと今回はKJがウォーリーを探し出して殺したらしい




KJの屈託のない満面の笑顔が、俺に得体の知れない怖気を感じさせた

 

 

  

―――

 

 

  

ウォーリーを捕まえた者は翌月の1日、一人で、誰にも何も言わず旅立つ

掟に「楽園へ行ける者はいかなる者にも『どこへ』行けるかを話してはいけない」「旅立つ際は、物を何も持たず、一人で所定の場所へ行くこと」とあるため、別れの挨拶は出来ない

KJはいつもより楽しそうだった

みんなとの別れを惜しむかのように色々な人の家を回る

これもウォーリーを捕まえた者の風習なのだが、KJは街中全員の家を回ろうとしていた

 
「俺の武勇伝を街中の人に知らせなきゃな!!」

 

なんてことを話していた





そんなことをしている間に月日は過ぎ、いつの間にか日付は翌月の1日になっていた

0時少し前、俺は外でKJと話していた

街灯に昇る2つの白い息、馬車のヒヅメの音も聞こえなくなり、通りすがりの犬のくしゃみだけが響く静かな通り

 
「寂しくなるな…」

 
俺がそんなことを言うと

「お前も楽園に来い!!お前だって本気になればきっと出来るさ!!俺待ってっからよ!!楽園では働かなくていいし、なんでもあるらしいぜ〜」

「だけど、戻って来れないんだろ??」

「きっと戻って来れないんじゃなくて楽しすぎて戻って来ないんだって!!なんてったって楽園だからな!!…おっと時間だ。誰かに見られると楽園に行けないらしいからな。…じゃあな!!今日はきっとお前がウォーリーを捕まえるぜ!!」

「お前の勘はいつも外れるだろ(笑)」

「ははっ、確かに(笑)」


そう言うとKJは軽く手をあげ、笑いながら走り去っていった

KJの背中が見えなくなると、少しずつ街の人々が武器を持ち外へ出てきた

 

 


「ウォーリーを捕まえるぞー!!」

「おぉーーー!!!!」
 

 

 

叫び声が街を揺らし、夜空を覆う

街中の明かりが付き、静けさが消える



一気に気温が上がった気がした



俺もこん棒を持ち、屈伸をする

「よし…行くか」

軽くジャンプした後、俺はビュンと走り出した

心は驚くほど、落ち着いていた






まず俺は街の外れの牧場に来た

なぜかウォーリーは街の中にしかいない

なぜそう言い切れるのかというと、街の外で見つかった事がないし、出れるのならば街の外の方が遥かに安全だからだ

だからこの外れの牧場から対角線側のパン屋まで順に探していけば見つかる可能性は高い



なぜウォーリーが外へ出れないのかなんて考えはとうの昔に議論され尽くした

でも結局は

「きっとウォーリーはもののけだから街の外に出ると神さまに殺される」

みたいな推測で落ち着いた気がする

 

しばらく走ると遠くから声が響いてきた

 

 


「ウォーリーがいたぞぉぉー!!!!殺せぇぇえ!!!!」

 

 
俺は足を止め、声のする方を向いた

その声は、この通りの一本隣の通りから聞こえてきていた

俺はその通りに行くため、すぐ横の建物の路地裏へ入った

入ってすぐ、暗い路地裏の反対側からこちらに向かって走ってくる人影に気付いた

「…街の人か??」

その人影はどんどんこちらへ近付いてくる



赤と白のしましまの長袖、帽子、青いズボン、メガネ…







「…ウォーリー??」

 

 

  

まさに青天の霹靂であった



まだ開始して1時間しか経っていないのにも関わらず、この細い路地裏でウォーリーと対峙してしまったのだ

段々とウォーリーの顔が見えてくる

こん棒を握る手に力が入る

 
その時

身構えていた俺に寒気が襲った

 





 

 

ウォーリーは、笑っていた

 

 

 



だがその笑顔はどこか機械的で、あまりにもこの状況にそぐわない表情のため、どこか作り物にも見えた




ウォーリーも俺に気付く


当然ウォーリーは脱兎の如く、急ブレーキをかけ、反転して逃げようとする






その刹那






「う…うおぉぉぉぉ!!!!!!」




俺は振り返ったウォーリーの背中目掛けて思い切り飛び付いた

肩に乗られたウォーリーは勢いよく赤レンガの冷たい地面に倒れる




気が付くと俺はウォーリーに馬乗りになり、返り血を浴びながらめちゃくちゃにウォーリーを殴っていた




「はぁ…はぁ…」




俺の股の間で血だらけでぐったりとしたウォーリーの表情は、笑っていた 



 

 

 

―――
 

 




「おめでとう!!!!」




俺は一躍街の英雄になった

災いをもたらすもののけをやっつけたとは言え、毎月のことだ

やはり街の人々の関心は「どうやってウォーリーを倒したか」よりも「楽園」についてだった

やれ写真を送れだの楽園の様子を書いた手紙をよこせだの、道行く人々ほぼ全員に色々注文を受けた

 

そこからの1ヶ月はあっという間だった
 

 
そして楽園への旅立ちの夜がきた

「これであなたも立派な楽園の住人ね…お父さんに会ったらよろしくね」

母は嬉しいような寂しいような、複雑な表情をしていた

5年前、父がウォーリーを捕まえ楽園に行った時は「うちから英雄が出た」と手放しで喜んでいたが、さすがに家に一人きりになると寂しいようだ

「大丈夫、母さんにはなんとかして連絡取るようにするよ」

 

――0時10分前になった

「母さん…じゃあ僕行くよ」

「うん…気を付けてね」


俺は振り向くと、一度も振り返ることなく家を後にした

何も聞こえないが、背中では母がすすり泣いている気がしたから

そんな母を見るのが嫌で、少し早く歩いた

 
――0時3分前、町外れの井戸に着いた

集合場所はここでよいはずなのだが、誰もいない

よりいっそう寒さが厳しくなり、街の街灯が赤レンガに映える霜ををキラキラと美しく照らし出していた

それをぼーっと眺めていると、街の中心の方が騒がしくなりはじめた

街の人々がウォーリーを探し始めたのだ



「今回は誰なんだろうな…」

 

 
そんな事を考えていた刹那、背後に殺気にも近い気配を感じた

 

 

 

 
『オメデトウ、ウォーリー』

 

 

 

 


一閃、おぞましい声

はっとした俺は声がした方を振り返るが誰もいない

 

「…な、なんだ??」

 
辺りは街灯がなく真っ暗なため、俺は少し怖くなり、一旦街の方に帰ることにした



街の中心に差し掛かったとき、向こうから街の人々がものすごい形相で走ってきた

 
(あっ…みんな…)

 

「いたぞぉぉお!!!!ウォーリーだぁぁぁあ!!」






(え…??)


振り返るが、俺の周りにはウォーリーどころが誰もいない

何を言っているんだと思った時、俺はある異変に気付いた



(なんだこれ??声が出ない…??ん…??しましまの服…??メガネ…??なんでこんなもの着てんだ俺??)





瞬間、全身に鳥肌が走る

気付いてしまう、恐ろしいことに



(ま…まさか…)


俺はとっさに横にある洋服屋の大きなガラス張りのショーウィンドウを見た










 

 
そこには無機質に笑う「あの」ウォーリーだけが映っていた






「ウォーリーがいたぞぉぉお!!殺せぇぇぇ!!!!」

 

 


すべてが、わかってしまった

 

〜終〜

 

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友人の感想の8割が「オチ読めました」で泣いた俺

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