盲目の少年

 

アダムは物心ついた時から目が全く見えませんでした
しかし周りの人々の助けもあり、毎日楽しく生活していました


「アダム、朝の散歩だぞ」

「あ、おはよう父さん」


この声はアダムの父親で、男手一つでアダムを育ててきました
母はアダムが小さい時に病気で亡くなったそうです

アダムは毎朝散歩に出掛けます
父に教えてもらったコースを歩き、おつかいをしてきます


「ただいま父さん、塩買ってきたよ」

「ありがとうアダム、さぁ朝ごはんにしよう」


二人は裕福でないながらも幸せに暮らしていました


「父さん、僕夢があるんだ」

「なんだい?夢って」

「大きくなったらお医者さんに目を治してもらって父さんの顔を見るんだ。僕小さい時から目が見えないから父さんの顔あんまり覚えてないし」

「そうか。ゴメンな…父さんがもっと稼いでいれば…」

「あ!そういうことじゃないよ!僕目が見えなくて良かったこともあるんだ。人よりも耳や鼻がいいから小鳥の鳴き声や森の匂いも人よりも分かるし。ただ、やっぱり治ったら一番に父さんを見たいなって」

「ありがとう…アダム」


こうしてアダムは毎朝散歩とおつかいをしながら父と楽しく過ごしていました

 
 

 

―――


ある日、とある専門家から電話がかかってきました

「もしもし?」

『あ、君はアダム君かね?』

「はいそうですが…あなたは?」

『私は君が幼い時に目の診療を担当していた眼科医のゴードンだよ』

「え?あのゴードン先生!?」


ゴードンとはアダムが幼い時に目の診療をしてもらっていた先生でした。しかし、治療費がかさみ、やがて病院に通えなくなってしまったと父から聞かされていました
アダム自身は小さかったためほとんど覚えていません


『実はね、君の視力、取り戻せるかもしれないんだ』

「本当ですか!?」

『このことは誰にも言わず、すぐ病院に来てくれ』

「…え??」

『君の視力が戻るのは本当だ。だからもし信じてくれるなら今すぐいつも散歩で通るファストフードの音楽が流れている店の前で待っててくれ。盗聴されてるかもしれないからもう切るよ』

「あ…はい…」

 

 


アダムは少しとまどいながらも散歩の途中の愉快な音楽が聞こえてくる店の前で待っていました
しばらくしてゴードン先生が迎えに来ました


「さあ行こう」

「でも…父さんに知らせなきゃ…黙って出てきたんです」

「お父さんはすでに連絡しといたから病院に来るだろう」

 
そういうとゴードン先生はアダムを半ば無理矢理車に乗せ、走り出しました

アダムは少し怖くなりました

なんとなく声や雰囲気は似てる気がするのですが、診療してもらってた時の記憶はないので確かではありません

アダムはゴードン先生に聞いてみました

 

「あの…本当にゴードン先生ですか?」

「ああそうだ。10年前に君の目の診療をしていたゴードンだ。まさか誘拐犯だとでも思ってるのか?ははは、君を誘拐したってなんにもならないよ」


「あぁ、そうか」とアダムは少し納得しました


「多分今言っても信じてもらえないから、目が治ったらすべてを話そう」

 
そうゴードンは話しましたが、アダムはなんのこっちゃという話でした

しばらくして病院につき、診察室に連れてかれました

 
「もうお父さんの同意は得ている。あとは君の同意があれば今からすぐに手術ができる」

「え!?…そんな急には…」

「君の視力が戻るかもしれないんだよ?真実を見せてあげるから」

「……分かりました」


アダムは決意しました。アダムには父さんの顔を見るという夢があります。それがアダムの背中を押したのかもしれません

 

――そして手術が終わり、3日が経ちました

ついに目の包帯が取れる時がきたのです


「じゃあ…取るよ」


アダムは不安でいっぱいでした。光の世界はどう変わっているのだろうかという不安と本当に治っているのかという不安で胸が張り裂けそうでした


ついに包帯が取られました

ゆっくりと目を開けると、そこには小太りの男と汚い部屋があるだけでした


「騙してすまない。前回手術の前にすべてを話したら君は逃げ出してしまったんでね」

小太りの男はゴードンの声でした。

「実は君のお父さんには何も話してないんだ。私の独断で手術をした。ここは私の個人診療所で君をかくまいながら目の治療をしていたんだ」


と目の前の男は言いました


「え?…ここは病院じゃ…?」

「本当にすまない。病院だと君の居場所がバレてしまうからね。それよりも、すぐに警察に行きなさい」


目の前の男は訳の分からないことを言っています

アダムは無性に怖くなりました
目の前の男に何かをされたのではないか、と
何かを埋めこまれたのではないか、と
何か危ない組織の匂いがしたアダムは逃げ出しました


「あ!待ちなさい!まだ話してないことが…!」


アダムは外に飛び出てタクシーに乗り、すぐに自宅の住所を伝えました
なぜかタクシーの乗り方は知っていました


こうしてアダムは自宅へと帰ることが出来たのです



アダムは混乱していました

あの男は僕に何をしたのか…

今こうして見えてる世界は本物なのか…



「早くこの事を父さんに知らせなきゃ…」


アダムは駆け足で自宅に飛び込みました

すると目の前に男が立っていました


「ア…アダム!!どこへ行っていたんだ!?」

「と…父さん!?」


なんとその男は父さんだったのです


「父さん!?父さんなの!?」

「な…お前…目が見えるようになったのか!?」


アダムは今までのいきさつをすべて話しました

「で、その男はすぐに警察に行けって言うんだ。だから怖くなって逃げ出して来たんだ。目は治ったけど、何かされてるかも」

 

すると父はおもむろに口を開きました


「そいつは紛れもなくゴードンだ……そしてお前はそいつの言う通り警察に行った方が良かった……」

「…??」



「お前はな、運び屋だったんだよ。俺らの忠実な」

「え…?…どーゆーこと父さん?」

「お前は毎朝買い物だっていう名目でヤクや銃を運ばされてた。警察はまさか朝から盲目のやつがそんなもの運んでるとは思わないからな」


父はニヤリと笑って言いました


アダムは何がなんだか分からなくなってしまいました

かろうじて自分が毎朝おつかいだと思ってやってきたのは犯罪だったということだけは理解出来ました


「父さん…なんで…?」

「ふっ、これをお前に話すのは何度目かな…実はな、このシチュエーションはこれが初めてじゃないんだ」


「……え?」



「なんでゴードンを覚えていたと思う?なんで自宅の住所を言えたと思う?なんでタクシーの乗り方を知っていたと思う?なんで目の前に見えたものが自宅と分かったと思う?」



目の前の男はアダムに考える暇も与えず話しはじめました



「お前はな、過去にも何度か俺らの計画に気付いたゴードンに目を治されてるんだよ。けど、お前は今回も今までと全く同じ事をした…」


「え…?……でもそんな記憶ないし…目もこうやって…」


「そう、2つとも俺たちが消したんだよ。記憶と視力を奪う注射を使ってな。まぁかろうじて本能で覚えていたこともあるみたいだがな」


すると突如アダムの首に激痛が走りました。振り返るとそこには見知らぬ男が注射器を持って立っていました



「うっ……!!」


アダムは床に倒れ込みました
アダムの意識が薄れていきます


「ちくしょうゴードンめ。またやりやがったな……一体やつはどこに隠れてやがるんだ…まあいい、またこいつを治しに接触してくるだろうから、その時にこの注射の抗生物質を奪ってから殺してやる」


「あ…父さ……」



アダムは必死に父を呼びます
すると父はアダムの元へ寄ってきてこう言いました



「ちなみに言っとくが、俺はお前の父さんじゃない。お前の本当の両親は俺が殺した」


「そ………ん………」


薄れていく意識の中、その男は不気味な笑みを浮かべてこう言いました



「目が覚めたらまたよろしくな、アダム君」





















「ただいま父さん、塩買ってきたよ」

「ありがとうアダム、さぁ朝ごはんにしよう」

 

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