昔あるところに、木を植え続ける男がいました
男の住む村は鉱山地帯で村の周りの山は森などなく、地肌がむき出しのはげ山ばかりでした
男は何年も前から昼は鉱山で働き、夜は一人で黙々と裏のはげ山に苗木を植えていました
周りの人々は最初こそその男の行動を賛美し、手伝おうとしましたが、その男はいつも 「勝手なことをするな!!よそでやれ!!」
と手伝おうとしてくれた人々を追い返してしまうのでした
人々はその男を変人扱いし、みな避けるようになりました
それでも男は何も言わず、昼は働き、夜は一人で黙々とはげ山に苗木を植えていきました
男には妻がいました
男は口数が少なく、めったに妻を誉めたりすることはありませんでしたが、妻は男を愛していました
妻は男を心配していました
気でも触れたんじゃないか・・・ 何かにとりつかれたんじゃないか・・・
夜な夜な大量の苗木ともに家を出ていく男の後ろ姿を、妻はただ見ていることしか出来ませんでした
ある日男は過労で倒れてしまいました
妻は言いました
「なんでこんなになってまでそんなことをするのよ!!!!あなたいったい何をしてるの!!??」
男は「大切なことなんだ」としか言いませんでした
体調を戻してからも男は木を植え続けました
村人に変人扱いされても止めることなく木を植え続ける男を見た村人たちは
「やっぱりあの男のやっていることは正しいんじゃないか」
と、いつしかそれを真似て他の山々に苗木を植える人々が増えていきました
そして十数年後、
村の周りの山々は十数年前のそれとは比べ物にならないほど緑豊かになり、作物も取れるようになり、土砂災害なども少なくなりました
村人たちは男に感謝をし、祭りを開いて男を称えようと男にもちかけました
しかし男は「そんなくだらないものの為にやったんじゃない」と村人を追い返してしまいました 妻が
「あなたのおかげで村が豊かになったのよ??もっと胸をはったら??」
と言うと、男はおもむろに
「夏が終わったらあの山のやぐらに行こう」
とだけ言い、それから男はまた黙ってしまいました
夏が終わり、秋
ある日男は、男の作業着に空いた穴を縫ってる妻の手を取り、家を出ました
「ちょっと、あなた一体どうしたの??」
男は「いいから」とだけ言い、妻の手を引きながら山を登って行きました
妻が男に連れられしばらく山道を歩くと目の前にやぐらが見えてきました
この山の上にあるやぐらは村全体を見渡せるような物で、昔山賊が襲って来たときのために見張りを置いておくやぐらで、今はただの展望台として使われていました
男は妻の手を放すと「ついてこい」と言い、一人でやぐらを登っていってしまいました
妻は訳がわからないなりに一生懸命後を付いていきました
長い山道を登ってきたため息が途切れ途切れになりながらも、ようやく妻がやぐらを登ると、男は自分が苗木を植えていた山を指差しました
妻は息を切らしながらその山の方を見ました
妻はその場に泣き崩れてしまいました
そこには山一面の青々とした常緑樹の間に、赤や黄色や橙で綺麗に紅葉した木で
「あ り が と う」
と書かれていたのでした
これが、不器用な男が最愛の妻へ送った15年越しのプレゼントなのでした fin |