ダンデライオン
あの時、もうここには入れないと思った

だから、俺はあの吊り橋を渡った









短いたてがみ
ぶち模様の毛並み
遅い足…



俺がサバンナで他の動物たちに嫌われ蔑まれる理由を挙げたらキリがない

同じライオンたちの群れに入れず、補食される立場のシマウマやヌーたちは俺を見て逃げるどころが鼻で笑う


「こっちくんな」


なんて言われるのは日常茶飯事だった





だから、吊り橋を渡った

何かを変えたくて





俺らのサバンナでは生態系が成立している。だから「この世界」を出ることはタブーとされてきた

「外の世界に出ると人間に殺される」

というのが一番の要因ではあるが

だからこの草木生い茂るサバンナを出ようと吊り橋に近づく者など誰もいなかった





吊り橋は100mほどあった

50mくらい下には小川が流れていた

川の音が谷に当たり、反響する

風が鳴き、葉が谷を舞う

吊り橋は少し揺れた

橋の下からは涼しく優しい風が吹き上げていた




向こう岸に渡ると、俺は辺りを見回した

「本当に何もないんだな…」

そこはサバンナとはうって変わり、果実が生る森や草原がなく、まばらな雑木林だけであった

しばらく進むと、近くの茂みからガサゴソと音が聞こえた

次の瞬間、人間の女の子が出てきた




「…!!??」


人間の女の子は俺の姿を見た瞬間、目を大きくまん丸させ、固まった

俺もじっと女の子を睨んだ

だいたい年は5〜6歳、おかっぱの小さな女の子だった

俺も腐っても百獣の王、人間の小娘が見たらこうなるのは自然だ

しかし意外にも女の子は動こうとしない

「なぁ、逃げないのか??俺はライオンだぞ??お前なんてすぐ殺せるんだ」

女の子は下を向いて袖をギュッと握っている

「…さぁ!!早く行け!!俺がお前を食っちまわないうちにな!!」

しかし女の子は動かない
どこか震えているようにも感じた



ふと、聞いた

というか、願望だったのかもしれない





「……なぁ??お前は俺を避けないでくれるのか??」




女の子はぐっと唇を噛みしめ下を向いたまま、一度だけ頷いた


木々の間を、優しい風が駆け抜けた





>>>


それから、俺は毎日吊り橋を渡った

雨の日も、風の日も


美味しい木の実を持っていけば、その子は喜んで食べ

その子に良く似た綺麗な小石を持っていけば大切そうにポケットにしまった

口数こそ少ないが、俺と会っている時の女の子はニコニコしていた




サバンナのやつらは「いつか人間に殺される」なんて言って俺をバカにした

だがそれでも良かった
というよりどーでも良かった

女の子に会いに行く楽しみだけが俺の生活のすべてだったから






ある日、サバンナはものすごい雷雨に見舞われた

「まさか今日は来れないだろ…」

しかし俺は女の子が心配になり、吊り橋に向かった

みんな寝床に帰り、誰もいない雨のサバンナを一人走った

雨で滑る草原に何度も転びながらも、俺は吊り橋に着いた
息が切れる
ふと顔を上げた







吊り橋が、無かった





雷により吊り橋が焼け落ちたのだ

俺は目の前の現実に目を向けられなかった


「…なっ…」

言葉が出なかった

ようやく出来た初めての友達の元へ行けなくなった絶望に、その場から動けなくなってしまった



空が遠く、狭くなった





俺は叫ぶ


「がおぉぉぉおぉお!!!!!」



聞こえているか、この声が

感じるか、この猛りを




地面を叩く雨に混じり、一筋の冷たい涙が頬を伝った





俺は全然平気だからな

だからお前は泣くな

この頬の冷たさなど、生涯お前は知らなくていいんだ
 
 
 
 
 
 
 
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それから俺はサバンナに戻った

元の生活に戻ったのだ

また、周りからバカにされる生活へ



しかし、俺の心は晴れていた

吊り橋は壊れ、会えなくなっても、あの子にしてやれる事があると、俺は毎日谷まで通った



サバンナのライオン達は怪しんだ

「あいつ、本当に何をしているんだ??」
「…もしかしたら私たちに復讐するために人間と手を組んだとか!?」
「…どちらにしろこのままほおっておくのは危ないな…」




ある日、吊り橋が落ちた日にも似た雨の日

俺が谷に行く途中、ライオン達が行く手を阻んだ

「お前を吊り橋へは行かせない」

「…どいてくれ、お前らには関係ないだろう」

そう言うと俺はライオン達を無視して横切り、谷へ向かった


その時




「ガブッ…!!!!」


背中に激痛が走る


「ガッ!!!!」


喉元にも激しい痛みを感じた俺は、水しぶきをたて草原に崩れる


「やれ!!!!」


ライオン達は俺を襲ってきた
俺は抵抗するも、ただでさえ出来損ない。すぐに動けなくなった

依然止まない雨に、血が流れていった




「はぁ…はぁ…お前が俺らの忠告を無視するからだ…」

そう言うと、ライオン達はゆっくりと雨のサバンナへ消えていった




「はぁ…はぁ…がっ…か…」


もうあの叫び声は出なかった


涙が溢れた


百獣の王にはとても似つかわしくないほど、綺麗な涙が




しかしあの時とは違った

心は暖かった

寂しくなかった

ありがとうと何度も呟いた




「生まれ変われるなら、人間のような姿になりたい…そうすれば、あの子に愛してもらえ…るか……な…」





体が軽くなっていくのを感じた

 
 
 
 
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季節が巡り、春が訪れる

サバンナの木々たちも息吹を吹き返す

肉食獣達は獲物を捕らえ、草食獣達は群れで逃げ回る

小動物たちも暖かい春の訪れに心を踊らせ森を走り回る






谷には、あの女の子がいた

女の子は友達を連れてきて、笑顔で谷を指さした




「見て!!これ私の友達!!」



そこには、谷一面に咲くタンポポの花がフサフサと揺れていた










どこか、彼に似た姿だった
 
 
 
  
―fin―
 

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BUMPの『ダンデライオン』からインスピ受けて書いた。というか歌詞そのままww

とてもいい曲なのでみなさん聴いてみてください。

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