悪法もまた法なり |
『――もっとグローバルな観点で、平和を作るために私たちが出来ることをしましょう』 『国民が自分に自信を持てば、人を赦せるのです。人を受け入れられるのです』 『平和を願うのならば、我々がパイオニアにならねば』
人の群が行き交う交差点の街頭ビジョンには、綺麗に身なりを整えた総理大臣が身振り手振りを交え熱弁している姿が写っていた
「平和とかちょー熱い」 「てかまじカリスマティックっしょ、うちパイオニアになるし」
雑踏の中からこんな話し声が男の耳に入った 男はふと周りを見渡す 街頭ビジョンを見上げる人々の顔は、みな感心している表情にも見えた
――《世界平和関連法案》 国として、己の利益のみを追求するばかりでなく、諸外国との関連性の中で、世界の平和と秩序のために国として出来ることをしようというマニフェストの基に作られた法案 具体的には、人権擁護法案と個人情報保護法案による国民の保護、在日外国人に対する参政権の付与、一部の地方自治体の政治的権限の分与権付与、ポルノの単純所持全面違法化など つまりは「国を世界のみなさんのために開きます。みなさんで良くしていき、引いては世界を平和にしましょう」という法案
反対論も根強いが、マスメディアの報道操作、賛成派議員による政見放送により世論は「賛成」の色が強かった――
男もそれとなしに街頭ビジョンを見上げていた 男は賛成でも反対でもない。いわゆる「無関心」の部類に入る そんな男がこんな演説に聞き入るわけがない しかもこの演説は的を得ているようで重要なことが抜けているような気がした 男がこれからの予定をふと思い出し、何事もなかったかのように目線を降ろして雑踏の中をまた歩き出そうとした瞬間、総理大臣のある言葉が耳をつんざいた
『この国は今や、私たちだけの所有物ではないのです』
その言葉にスクランブル交差点が一瞬の無音を持った 男も同じく立ち止まった しかしその一瞬の無音が持った意味は、男のそれとは全く違ったものであった
拍手が
拍手が鳴り響いたのだ
交差点いっぱいに、車のクラクションや電車の音を掻き消すような盛大な拍手が
唖然とする男の手からケータイがすり抜けて地面に落ちた ケータイが手を離れた瞬間はっとした男が、辺りを見回すと
男の視界の中だけでおよそ数百はいるであろう人間の顔が、みな同じ方向を見上げ、感嘆の拍手を叩いていた
刹那、男の背中に得体のしれない怖気が襲った
全身の毛穴が開き、体温がガクッと下がる感覚。それと共に襲う眩暈
生存本能が警鐘を鳴らしたが故の怖気
この時男は「今まで無関心でいたことに対しての後悔」という警鐘の中身まで察することは出来なかった。しかしなぜかこの時男の頭をよぎったもの
――手遅れ
そう感じた
――2ヶ月後、世論の後押しもあり法案は可決 その翌月に施行された 国として莫大な予算をつぎ込み徹底されたこの法案は、まさにあの時総理大臣の言った通りに進んでいった 普段すべてを後回しにしてきた国が、ここまで狂いもなく進めているのならばメディアで賞賛されてもよいはずである しかしあれだけテレビを賑わせていたこの法律も、実際に施行されると息を潜めたように静かになっていった 国民はいつもの生活に戻り、いつものようにマスメディアから次々に流れされる目新しい情報に一喜一憂し、いつしかその法律のことを忘れていた
――施行から1年半
この国は世界地図から消えた
いや、正確には国としての表記が無くなったのだ
外国人参政権により、隣国から流れてきた人間が組織的に特定の人物を当選させ、地方自治体の権限を隣国に譲渡した 人権擁護法の徹底、ポルノ単純所持違法化により個人に対しての強引な家宅捜索が可能となった。これにより世界平和関連法の反対者やその施行に弊害となる『邪魔な人間』は徹底的に駆逐された
こうして国の閣僚にこの国の人間がいなくなった翌月、この国は売られた
――今でも男は生きている。国民も、昔とあまり変わらない生活を送っている
「国語」で習う言語が変わり、街の看板の文字が変わり、隣国の人間の地位が少しだけあがり、それに対する不満を口に出して言えなくなった以外は
この国はもう国家ではない
隣国の中の一つの『特別経済区』としてひっそりと存在している
そして
当時の総理大臣は、今隣国の官僚として天下りし、非常に優雅な余生を送っている
当時純粋な賛成派だった議員が、監獄に入れられる直前こう呟いたという
『真っ黒で濁りきった水に、平和を願い一滴の白を落としたはずが、その白は一切の何かを変えることもなく、黒に消えた』
《終》 |
あくまでこれは極論を描いた読み物(フィクション)です。
他にも悪法は山ほどありますが、とりあえず「外国人参政権」「人権擁護法案」「沖縄ビジョン」などについてググってみてください。
民○党が嫌いになると思います(笑)